東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)91号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いない甲第二号証の一(本件願書)、二(手続補正書)によれば、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は次のとおりと認められる。
(一) 技術的課題(目的)
本願考案は、手掌で簡単に把持できる程度の大きさで登山用、独身用等に適する携帯用ガスこんろを得ることを目的とする(本願明細書第一頁第一八行ないし第二頁第一行)。
(二) 構成
本願考案は、右目的を達成するためにその要旨とする構成を採用したものである(手続補正書第二頁第一一行ないし第三頁第一四行)。
別紙第一図面によつてその実施例を説明すると、(1)はガス容器で、その頂部にガス注出口(2)を有する容器接続部を設けるが、右接続部は保持筒(3)中に外筒(4)を嵌装固定したものである。保持筒(3)は、外側に螺着用の螺絲を設け、間隔部(5)を置いて延長周壁部(3a)を設けたもので、この部分をガス容器(1)に固定する(明細書第二頁第一七行ないし第三頁第四行)。
(7)は外筒(4)内に嵌挿した弁板で、ガス注出口(2)に当接する(同第三頁第六行及び第七行)。
(10)は栓体、(11)は栓体(10)に穿設した空洞状の受圧部であり、(14)は受圧部(11)と栓体接続部(10a)とを、(15)は受圧部(11)とガス噴出筒(13)とをそれぞれ連通状態に連結したガス通路である。(12)は栓体(10)に螺入、螺戻自在に挿入した螺杆で、その円錐状の先端部(12a)が受圧部(11)に圧接する(同第三頁第一〇行ないし第二〇行)。
(三) 作用効果
ガス容器(1)に栓体(10)を取り付けると、押圧杆(21)が弁板(7)を押下する。把持子(16)により螺杆(12)を所定の方向に回動すれば、螺杆の円錐状の先端部(12a)が受圧部(11)の入口に圧接して受圧部は閉塞され、ガス通路(14)、(15)の連通は遮断される。把持子(16)を逆回転すれば、螺杆の先端部(12a)は受圧部(11)から離間し、ガス通路(14)、(15)は連通する。また螺杆先端部(12a)の受圧部(11)に対する離間状態の大小により、ガスの注出量を加減し得る(同第五頁第四行ないし第一四行、第二〇行ないし第二二行)。
このように本願考案は、ガス通路(14)、(15)を簡単かつ確実に連通、遮断でき、ガス注出量も適宜微妙な程度に調節可能であり、またガス容器と栓体とが簡易に着脱し得ると共に、支持杆(19)、被覆皿(20)及び支持杆(19)上に載置する煮炊器等もそれぞれ分解可能であるから、携帯に至便である(同第六頁第四行ないし第一一行)。
2 相違点<1>の判断について
成立に争いない甲第四号証の一によれば、引用例1記載の発明の特許請求の範囲には「ソケツト内にほぼ密封係合状態にねじで固着されたバーナー」と記載され、かつ、その第3図には取付ソケツト9とバーナー3のねぢ山附き部分3´とが密封係合状態で螺合していることが示されていると認められるから、引用例1記載のバーナー3は、そのねぢ山附き部分3´´を取付ソケツト9に定着することによつて取付ソケツト9の上全面に気密状態に保持され得るものであることが明らかである(別紙第二図面参照)。
したがつて、引用例1記載の発明における容器接続部も、本願考案の容器接続部と同様に、栓体が容器接続部の上全面に気密状態に保持される作用効果を奏するものであつて、両者の容器接続部の構成によつて生ずる作用効果には差異がなく、本願考案の相違点<1>のように構成することは単なる設計事項にすぎないというべきであるから、相違点<1>の判断に関する原告の主張は理由がない。
3 相違点<2>の判断について
原告は、引用例1記載の発明の特許請求の範囲に「平素閉じた位置に向つて偏待された弁を収容するバーナー取付ソケツト」と記載されていることを根拠として、引用例1記載の発明は、弁の中心が取付ソケツトの中心に対して偏寄していることを構成要件とする旨主張する。
しかしながら、前掲甲第四号証の一によれば、引用例1の発明の詳細な説明には「バーナーがその位置にねじ込まれた時自動的に有効になり」(第一頁右欄第一行及び第二行)、「12は前記閉塞弁(自動閉塞弁8)に連結されたピンであり且つ此のピン12によつて弁8はバーナーのねぢ山附き部分3´が取付ソケツト9にねじ込まれた時スプリング13の作用に抗して開かれる。」(第一頁右欄第二五行ないし第二八行)と記載され、特許請求の範囲にも「弁を開いた位置に維持して燃料をこの弁を通つて(中略)流れさせ得るように(中略)固着されたバーナー」と記載され、また、第2図には自動閉塞弁8がスプリング13の作用により弁座10に当たつて閉じている状態が、第3図にはバーナーのねぢ山附き部分3´が取付ソケツト9にねじ込まれることにより自動閉塞弁8がスプリング13の作用に抗して弁座10から離れ開いている状態が示されていることが認められるから、前記特許請求の範囲の「平素閉じた位置に向つて偏待された弁」とは、バーナーのねぢ山附き部分3´が取付ソケツト9にねじ込まれない限りスプリング13の作用によつて閉じた位置に固定されている弁を意味することが明らかであつて、これをその中心が取付ソケツトの中心に対して偏寄している弁と解すべき根拠は引用例1の記載中にはない。
したがつて、引用例1記載の弁の構成に関する原告の主張は理由がない。
そして、引用例1記載の発明は、自動開塞弁に連結されたピンによつて前記自動閉塞弁はバーナーのねぢ山附き部分が取付ソケツトにねじ込まれた時にスプリング作用に抗して開かれる構成によりガスは弁座を通じてバーナーへ達する作用効果を奏することは明らかであり、右作用効果は、本願考案の相違点<2>に係る構成、すなわち「弁と外筒の内壁間にガスの通過する間隙部を設け、かつ、弁は保持筒と外筒との各天壁に貫設したガス注出口に当接している」構成により奏する作用効果と格別相違するものではない(前掲甲第二号証の一、二によれば、本願明細書には、右構成によつて格別の作用効果を奏することについての記載は存しないことが認められる。)から、本願考案の相違点<2>のように構成することは単なる設計事項にすぎないというべきである。
4 相違点<3>の判断について
本願考案の空洞状の受圧部(11)は、前記のとおり、螺杆(12)の円錐状の先端部(12a)の押接、離脱によつて開閉されるものであるが、右先端部(12a)は、別紙第一図面の第1図に示されているようにガス通路(14)、すなわちガスの流入口の方向に細くなる錐状に形成されている。
一方、成立に争いない甲第四号証の二によれば、引用例2には、「閉子7には、ガス開閉孔15、ニードル弁孔16、ガス通過孔17が設けられ、ガス流入口4から(中略)ガス開閉孔15を介してニードル弁孔16、ガス通過孔17を経てノズル取付ネジ部3に連通している。」(第二欄第一七行ないし第二一行)、「ニードル20の先端部はニードル弁孔16と接離調節され該弁孔を開閉可能にしており」(第二欄第二五行及び第二六行)、「ガスの微調整をコツクに内蔵したニードル弁によつて行うことが出来る」(第四欄第八行及び第九行)と記載され、第1図にはガスコツクの縦断図(別紙第三図面参照)が示されていることが認められる。そうすると、右ガス開閉孔15は本願考案にいう空洞状の受圧部に相当し、これをニードル20の先端部の接離調節によつて開閉する構成は本願考案の前記構成と同一ということができる。もつとも、右ガス開閉孔15を開閉するニードル20の先端部は、ニードル弁孔16すなわちガスの流出口の方向に細くなる錐状に形成されており、本願考案の螺杆(12)の先端部(12a)とは錐状の方向が相違する。しかしながら、受圧部を開閉する螺杆あるいはニードルの先端部が、ガスの流入口の方向に細くなる錐状に形成されている場合においても、ガスの流出口の方向に細くなる錐状に形成されている場合においても、ニードルの先端部の方向の如何にかかわらず、ガス通路を簡単、確実に連通、遮断することができ、また、ガス流量を大小適宜に調節でき、特にその微調節もなし得るという作用効果を奏するものであつて、そのいずれの構成を採用するかによる作用効果上の差異は存しない。しかも、ガス器具の流量調節弁において、本願考案のようにニードルの先端部がガスの流入口の方向に細くなる錐状に形成されている構成が新規のものであつてこの点に本願考案の技術的意義が存するものと認めるに足りる証拠も存しない。
したがつて、引用例2の記載事項に基づいて本願考案の相違点<3>のように構成することは、当業者がきわめて容易に考え得る程度のことというべきである。
5 以上のとおりであるから、本願考案は引用例1及び引用例2記載の事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとする審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の取消事由は存しない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。
ガス容器の頂部にガス注出口を有する容器接続部を設け、その容器接続部は、開口部を下向きにした保持筒中に外筒を嵌挿固定し、保持筒の外側には螺着用の螺絲を設けると共に間隔部を存置して立上り部を延長周壁部として設けることにより構成し、外筒中に螺旋発条で押圧した弁を嵌入してこの弁と外筒の内壁間にガスの通過する間隙部を設け、かつ、弁は保持筒と外筒との各天壁に貫設したガス注出口に当接し、外筒中に螺旋発条で押圧した弁を嵌入して弁をガス注出口に当接し、また、前記容器接続部に気密状態に定着ないし脱却可能になした栓体接続部を有する栓体に所定の範囲で螺入、螺戻自在の螺杆を挿入してその先端部の押接、離脱によりガス通路の開閉可能な空洞状の受圧部を設け、この受圧部と連通するガス通路の端部を前記栓体接続部に開口し、右栓体に栓体接続部と対立する反対側にガス噴出筒を突設し、これを貫通するガス通路と前記受圧部とを連通させ、前記ガス容器と栓体とから成る携帯用ガス焜炉